ひっつきむし(独断と偏見による)

だいたいゲームの感想です

「狂気より愛をこめて」の感想

頭にカジキが刺さっていることに一切言及のない佐伯

これは、絶対に会話がかみ合わない男たちとの恋愛ゲーム。

『狂気より愛をこめて』はjamsanpoid開発による、恋愛アドベンチャーゲームです。
気になるあの人と何故か話せない…そんなドギマギ体験を、ドット絵とフルボイスであなたに届けます。

主人公であるあなたは、元々いた高校が爆破されてなくなってしまい、近所にあった私立古詩庵歌羅芽琉院学園に転校してきた高校2年生。新たな母校で青春の日々を過ごし、四人の男たちとの恋愛を成就させましょう。

攻略ターゲットは同級生で金髪イケメンチャラ男の佐伯 祐介、保険医を務める糸目セクシーな荒川 修司先生、かわいらしいけど謎が多い、おそらく下級生の田村 マシュマロ、高校の生徒会長を務める青白い肌の3年生、アオルタ先輩の四人です。

部活動、体育祭、夏祭り、お正月、うなぎとばし大会、バレンタインなど一年の学園生活を通して四人との交流を深めていきましょう。

様々な選択肢で好感度とストーリーが変化し、どのキャラクターを攻略するかでエンディングが変化する、マルチエンディング方式となっています。八方美人を演じていると誰からも相手にされなくなってしまうかも…?

(公式サイトの紹介文を引用)

いわゆるゲーミングなPCを買ったのでちょこちょことPCゲームを遊んでみています。ということで、「狂気より愛をこめて」をプレイしました。恋愛ゲームやったのアンジェリークルミナライズぶりっぽいです。

明言はされていないのかなと思うのですが、主人公の性別はおそらく自由な設定で、基本的に写り込みなし(あるはあるけど性別の特定はできない感じ)、一人称を選択可能です。

こちらのトレーラーを見て好きそうだと思ったら買いましょう。基本的に雰囲気はこちらですべてわかります。

かわいらしいドットのイラストから繰り出される冗談抜きで話の通じない男たちとの恋愛ゲーム。「話が通じない」「話が噛み合わない」「相手が何を言っているかわからない」が比喩ではなく、ワードサラダ・謎言語・罵倒オンリーの会話(会話?)を楽しむことができます。

かわいいが何を言っているのかわからない(物理)

相当ぶっ飛んだ作品であることは間違いないのですが、振り切れたノリのギャグは面白いですし、一方で「容易に会話の通じない相手との恋愛」というものに対してまじめにつくられた作品です。あなたの言っていることがよくわからないけどそれでも好き、ということは、間違いなく「強い」な、と思いました。

荒川先生のくれた弁当を捨てることでフラグを折る主人公

作品全体のぶっ飛んだノリに違わず、主人公もめちゃくちゃです。基本的に勢いがこんな感じ。本当にとにかく勢いがすごい。あと攻略対象たちに対しておおむね性的な魅力を感じています。

その上で意味不明な人間に対する許容度がものすごく高く(すごい)、言ってることがわからなくてもまあいいやの精神があるので(なかなかできることではない)、意味不明言語男たちとの恋愛ができます。すごい。

 

ボリュームは軽めで気軽にプレイできる作品ですので、トレーラーを見て好きそうなら買ってしまっていいと思います(ここは本当に重要)。レッツ何を言っているのかわからない相手との恋愛。

ただし素直なハッピーエンドを求める方にはお勧めしません。「狂気」のタイトルはそういう意味では飾りではないので、どちらかといえば暗い話が好きな人向け。

ちなみに攻略順は佐伯&アオルタ先輩→荒川修司→マシュマロくんがおすすめです。

 

追記からネタバレあり感想です。

 

 

佐伯祐介

こういう興奮の仕方をできるのが主人公の強靭さ

愛らしいやつでした。かわいい。オールウェイズ正気だったのかと思うと逆に怖いですが、好きな子とうまくおしゃべりできない、言いたいことが伝えられないのは悲しくもどかしいことだったろうとも思います。好きの気持ちが普通に伝えられてよかったね。

とはいえ言っていることのニュアンス自体はかなりつかみやすい印象だったので、実はずっと正気だったことが明かされるとなるほどね、という感じでもあり。字面が一見意味不明でも文脈や単語の響きを見ればなんとなくわかる、そうでなくても感情はまっすぐ伝わってくるのがなんとも愛らしかったですね。なんか……いぬのようで……。

 

つまりこういうのがただただ「マジ」なのも好き

何言ってるのかわからないけど素直でいいやつなことはわかるし、とにかくアホだけどまともな倫理観の持ち主であることもわかる。そのへんの描き方のバランス感がよかったです。意味不明な発言で笑わせるだけじゃなくて、ちゃんと魅力がある。

 

そんな佐伯が自分はまったく悪くないことでつらい目に遭ってしまうのはとにかく悲しかったです。好きな子とのバラ色の生活がこれから……というところでなぜ……。

最初に攻略したので、「片想い」の流れる中かなり呆然としてしまいました。片想い、めちゃめちゃいい曲で好きです。どうしてこんな目に遭わなければいけないのか……と落ち込んでしまった。

Aエンド(でいいのだろうか)は残酷に残酷を重ねるような終わり方で、この先どうなってしまうのだろうと思うしかなく。佐伯がまさか故意に放火したわけでもなくて、揉めた結果のことなのでしょうけど、その方がよほどつらいような気もします。

きっと自分を許せないだろうし、その結果どうなってしまうのかは正直考えたくない。ここで姿を消して、それでどうなると言うのか。イヤだ~……。

 

駆け落ちエンドのほうは少なくともその手の不幸はなくてよかった……とは言えると思うのですが、こっちはこっちで一生背負っていかなくてはならないんだろうな。物理的に逃げたところで、むしろ余計に心は縛られるばかりなのではないかと思ってしまいます。

そういう意味では、逃げずに向き合うというAエンドでの選択の方がたぶん正しいんですよね(親の罪を子が償い、親の借金を子が返すという状況の正当性はこの際問わないこととする)。なのにそうしようとするとああなるって意地悪すぎませんか。

 

けれど、本当はもういっぱいいっぱいなのに、もういいんだよと言われたくて仕方なかったのに、それでも毅然と生きようとする佐伯の気高さは素晴らしいと思ったし、やはりそれでも差し伸べられた手を離すことができなかったごく普通の弱さにも胸を打たれました。

だからこんな良い子を、ただの子供を理不尽な目に遭わせる世界が一番許せないよ~~! 親の借金を子が返す謂れはねえ! 相続放棄しろアホ~! でもそうしたところで心は解放されないので詰みってことですか!? やだ~!!(大の字)

 

 

アオルタ

主人公からアオルタ先輩への劣情

真面目で穏やかないい人でとてもかわいい人……なんですが、終盤の展開があまりにもあんまりすぎてそれまでのかわいかった思い出が脳から消し飛んでしまった感じがあるというか、もはや素直にあそこかわいかったな~とはならなくなってしまった。

普通にわざとやっていると思うのですが、特にBエンドがあまりに救いも進歩もなくて、ちょっと凹んでしまいました。全体的にわりと嫌な方向で18禁恋愛ゲームっぽい話だった。おお、「無力でかわいそうなアオルタ先輩」……(頭を抱える絵文字)。

 

あらかじめ予定を定められた自由のない人生だとして、「無能なりに役に立たなければならない」と刷り込まれていたとして、そこから抜け出すことを自分で選んでほしかった。そう思う主人公の気持ちはわかります。わかるだけに、好きな気持ちが一気に虚無感や怒りに反転してしまうのが悲しい。

逆にアオルタ先輩が植え付けられた価値観から容易には抜け出せなかったことも想像がつきます。もっと時間をかけてそのあたりと向き合うことができれば結果は違ったのかも、とは思うんですよね。去ろうとする主人公の袖を掴むところとかを見ても。もはや言っても詮無いことなのですが。

 

こうした「スケベ」の胸糞悪さをわざとやっているのかが気になる~!

ともかくも、いずれのエンディングでもアオルタ先輩は人生を変えることを選べなかったという事実には変わりがないわけで、無情だなと思います。

アオルタは生まれ育った世界に、家族に、主体性を奪われてきたわけで、それは彼が悪いわけではありません。どんなふうに生まれてきたとしても、その人が悪いわけでは絶対にないし、そのせいで酷く扱われることがあっていいわけがない。

 

それでも、その結果として、主体性がない/主体性を(わかりやすく)表すことができない者は、他者から客体として扱われてしまうのだなと思いました。どうも日本語を話せないところからしてそこに繋げて描かれているし、世知辛すぎる。

アオルタ先輩はいつもちゃんと自分の意見を言ってくれていましたが、そんなの通じていなければなんの意味も持たないのです。悲しいことに。通じるように手紙を書いても遅すぎる、もしくはそのまま意思などないものとして踏み潰される、そのどちらかなのはあまりに救いがないなと思いました。

 

エメスは(主人公に対して)フェアな人ではあると思いますし、Bエンドであっても主人公がアオルタ先輩を好きなのも本当のことです。でも、彼女たちはアオルタを意思のある存在として、対等な人間として扱わない。

彼女たちにとっては、「『かわいそうな彼』を、『私が』『助けてあげなきゃ』」なんです。非常に悲しい気持ちになります。本当にアオルタには自らを救う力はないのか、と思うのですが、それは描かれていないからわかりません。ひどい。

というか自らを救済できなければ一個の主体として扱われないのであれば、その時点でもう絶望なんですけど……。なんというか普通に社会的弱者なんですよね、アオルタ先輩。そして(彼の属する)社会は彼を救わないし、それをそのままドンと置いていくから当然救いがない。

 

いわゆるラッキースケベ展開が多かったのも、そういう「モノ」だからなのかな~と思ったり。優しいから許してくれるのは彼の美徳ではありますが、本当はもっと怒るなりしてほしかった……とあとから振り返ると考えてしまいますね。

佐伯ルートで「何言ってるかわからないけど好き」のいい意味での強さを感じた一方で、やはりそれは暴力的でもあるよな、と感じたお話でした。

やっぱりちゃんと話しあってというか、話しあうことが難しくても、だからこそ相手の意思を確認して尊重する、相手を対等な存在として扱う、そういうことであってほしいです。恋愛に限らず、人間関係というものに対して。

 

 

荒川修司

このへんマジで意味不明だったな

なかなかヘビーというかなんというか……。最後の選択肢を見てこりゃどっちにしろ詰みだぜー! と思ったら本当にどっちも詰みでした。イヤ!

さて、「狂っている」というのは相対的な状態であり、荒川修司の感覚がマジョリティなのであれば、それは狂っていることにはなりませんし、彼の行為が罪として扱われる社会でもないはずです。

良いとか悪いとか、犯罪だとかはさておき、他の人間たちと、社会と折り合うことができないのは悲しく、孤独なことではあります。その「狂気」を理解し、分かち合う相手がいてくれたなら、それはその人にとって間違いなく幸いでしょう。

 

荒川修司においては、「会話が通じない」ということが、そのままそうした「狂気」の表れとして描かれているのがよかったです。「同じ日本語を話しているはずなのに意味がわからない」ということの意味。

ことばや会話とは、それが持ち、表す意味について、その言語を扱う人間の中で広く共有されているから成り立つもので、それは文化や思想、感覚といった前提の共有でもあります。だからそうしたものがみんなと違う人の話すことばは、「何を言っているのかわからない」。

 

これはハッピーエンド

なのでどっちのエンディングでも、荒川修司にとってハッピーはハッピーなのかも。理解者を得たという意味では変わりがないので。まあ死んでたらハッピーも何もないと思いますけど。ワハハ。

惹かれあう過程そのものはお互い性欲ベース感はありますがわりと真っ当で(そもそも教師と生徒で何やってんだではあるが、性欲ベースで恋愛やること自体は別に悪いことではない)、こんな人ではあるけれど、愛し愛されること、理解者を得ることは「ごく普通に」嬉しいんですよね。そして裏切られたら悲しい。

なんかそういう荒川先生の気持ちについて考えると悲しい気持ちになる……んですが、犯罪はNGなので……。でも社会に適応できない人間は救われないの~!? と思うとまたなんか悲しいしやるせないよ~の気持ちはあります。このゲームにほしいものって総じて社会福祉による弱者の救済なのかも……。

 

ところで、佐伯と荒川先生はワードサラダ系という意味では同じですが、けっこう趣が違って面白かったですね。

佐伯の発言はあからさまに意味をなしていないか何が言いたいのかわかりやすいものが多く、ハナからあまり口から出ていることに真面目に向き合う必要を感じないのですが、荒川修司はなんか一見意味のある文章になってそうだったり、わりと普通に意味の通る発言をしていることもあるので一回読まされるんですよね。そして結局意味不明な文章に恐怖しMPを奪われるという……。

このあたり佐伯は自分でもわけのわからない発言をしていることが明確なので、逆に荒川修司は自分では意味の通ることを言っているつもりなのかもしれないですね。知らんけど。平然と怪文書で会話してくるノリは「このテープもってますか?」を連想しました。意味の通らない長文ってゾワゾワするよ~。

 

田村マシュマロ

シンプルな罵倒すき 興奮するから

かわいい~🎶 最初に攻略しそうになってしまったのですが(ショタコンだから)、途中で何かを察して最後に回しました。攻略順、普通に佐伯・アオルタ→荒川→マシュマロっぽい感じですね。

マシュマロくんはなんかもう気の毒というか……当たり前に今更どうしてあげることもできなくて、みたいなところもそうなんですが、荒川修司とたまたま荒川修司の才能があった人間の両方にぶつかるのシンプルにお気の毒すぎませんか? どっちのエンディングでも主人公が荒川修司化するの一周回ってゲラゲラ笑ってしまった(笑うな)。

しかし逆に言えば、荒川修司の愛そのものは狂っているわけではないんだろうな~と思いました。その人のことが好きで、味方でありたいとか、ずっと一緒にいたいとか、そういう部分に関してはごく普通であって、その上で事故って起きたことになんか目覚めてしまっただけで……。

 

かわいいね マシュマロくんのこの笑顔本当に好き

マシュマロくん本人に関して言えば、すごくかわいくていじらしくて切ない気持ちになりました。本意でなかったにしては罵倒の切れ味とバリエーションが普通にすごかったような気もしますが……。

やっぱり「うざ」「きも」「死ね」「変態」みたいなシンプルなやつが好きです。キュートな少年から繰り出される鋭利なことばってドキドキしちゃいますね。何言ってるかよくわからなくて好きなのは「干潟の余命五分の貝」。死臭したのかな?

 

そういうマシュマロくんの「会話の通じなさ」は、会話を成立させる気がないから、ですね。言わば唯一の養殖である。なんか他の3人に比べて会話の難易度低いな、という印象があったのですが、彼のことを知ればそれはそうでした。養殖だから。

あまり仲良くならないようにしたいという前提がありながらも(どこまで意識的だったのか定かでないような感じもありますが)、食べ物にすぐ釣られてしまったり、デートに来てくれたり、そういう徹底されていなさがなんだかすごく愛おしかったです。笑顔が本当にやわらかくてかわいくて。

 

過去のことを忘れてしまっても学校行事に馴染めなさを感じているとか、事情を思い出せないなりに主人公のことを一生懸命助けようとしてくれるとか、そういうところもなんかもう胸がギュッとなってしまって。ドロップキックで助けに来てくれたマシュマロくんはとてもかっこよかった。

マシュマロくんが生きていなくても、マシュマロくんとの日々はあんなにきらきらしていたのに、マシュマロくんは主人公に心を砕いてくれていたのに、終わりがあまりに唐突で、無情だなと思いました。素直な感想として「どうして……」があるんだよな。どうして……。

 

あんな断ち切られ方のうえ葬式にも呼んでもらえなかった、みたいなのはツレ~と思ったんですけど、馬鹿正直にマシュマロくんとの関わりについて話したのだとしたらまあ……呼ばれんわな! 狂人だもん! ガハハ! になっちゃった。

というかなんなら犯人とか関係者として見られてもおかしくないですよね。まあ事件当時7歳になるわけで、その年齢考えたら警察に疑われるみたいなことはほぼなかったでしょうけど。遺体を発見してくれた言わば恩人としてはもうちょっとまともな扱いを受けてもいいとは思うんですけどね。

けれどどんな別れ方だったとして、残されたほうは生きている限り生きていかなくてはいけないわけで、お墓参りには行かせてもらえてよかったな~と思いました。素朴な感想ですけどね。区切りって大事で、区切れなかったら荒川修司になってマシュマロくんと永遠を手に入れるエンドになってしまうわけで。

成仏エンド(?)、まあ一番後味は良いエンディングなので、うまいこと最後に見られてよかった気がします。倫理的にまともなEDランキング、成仏と手紙がワンツー。

 

 

主人公

きれいな荒川修司

やべーやつでしたね。やべーやつランキング、主人公と荒川修司が一位タイ(他は別に気が狂ってるわけではないから二位以降は存在しないランキング)。

 

主人公の性格の傾向、とにかく「勢いがすごい」「とにかく諦めない心」「異様に前向き」「攻略対象のことが性的な意味で好き」みたいなところに特徴があるかと思うのですが、これが良い方向にも悪い方向にも働くのが面白かった。

相手が何を言っているのかわからなくても気にせず付き合える大らかさやなんでも前向きに捉える解釈は相手の意思を無視することにもつながりますし、粘り強さは執着心の強さでもあります。

 

同様に「何を言っているかわからないけど好き」ということは良くも悪くも強度が高いな、というのが全体的な感想ですね。

理屈ではなく相手のことを好き、と言えば美しく崇高ですらありますし、困難に打ち克つための力にも成り得ますが、相手の細かい意見や思考などは最初から気にしていないとも言え、それは当然相手を踏みにじることにもなります。

 

そのあたりのもろもろを踏まえ、相手のすべてを受け容れる寛容さと、すべてを無視する傲慢さは紙一重、あるいは全く同じなのかもしれないなと思いました。真逆のように思える概念なのに、不思議ですね。

そういうものが揺るがないで存在し続けることの美しさと恐ろしさ、面白かったなあ。

 

 

頭どうかしてるようでいて遊んでいていろいろと真面目に考えることも多い作品で、サクサクとしたテンポ感ながらボリューム以上に楽しめました。

またこういうゲームで遊んでみたい……けど「こういうゲーム」とは……? になる感じ、またどこかで「こういうゲーム」に巡り会いたいな……と思いました。では。