ひっつきむし(独断と偏見による)

だいたいゲームの感想です

「アンジェリーク ルミナライズ」の感想③(シュリ・ヴァージル・ノア)

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全攻略対象クリアしました。ということで、今回は残りのシュリ、ヴァージル、ノアの感想です。

トゥルーエンドというか最終エンドがあるタイプのゲームでもないので(女王エンドはありますが最初に見てしまったしな……)、全クリに際して言いたいことというのは特にないのですが、クオリティにブレのない作品だったなと思います。

もちろん好みで言えばどのルートが気に入ったなどはありますが、攻略対象が9人いてあれだけのテキストがあって複数ライターで、これは優れていたけどこれはいまいち、みたいな感想が浮かばないのがよかったですね。

どれも女王試験や守護聖の設定をしっかり土台にしたシナリオになっているのもよかったです。別にこういう設定じゃなくてもよくない? みたいな話がないんですよね。女王試験における守護聖との恋だからこそのストーリーで楽しめました。

いわゆる糖度は低めの作品だったと思いますが、乙女ゲー久しぶり勢的にはちょうどよかったですかね。こういう点は良し悪しの話ではないですが。全体を通してとりあえずキスにしろその先にしろ、しっかり同意を取ってからということになっているのは今っぽいですよね。同意は大事だからね。今の乙女ゲーってわりとこういう感じなんでしょうか? そのへんヒロインのアンジュ本人もしっかり自衛できる人なのはたいへん好印象でした。

面倒だった点はイベントが膨大すぎて普通にやってるだけだと全然回収できなかったところですかね。イベントがいっぱいあるのは間違いなくいいところなんですが、視察を回収しようとすると引き伸ばさないといけないのと、帰省を回収しようとすると周回せざるを得ないのは食い合わせが悪かったように思います。イベント全回収はかなり根気が要りそう。

 

以下ネタバレありです。

 

 

シュリ

クールそうに見えて普通に思い悩んでいたり、恋愛面ではかなり熱烈だったり、常に意外とこんな感じの人なんだなあと思っていた気がします。声のトーンが低音一辺倒でなく、テンション上がったりしてるときはちょっと高くなるのがかわいかったですね。帰省の服も堅苦しい印象の守護聖服とは打って変わってカジュアルなのがなんかよかった。

力を司る守護聖ということで、シナリオの方は弱さを知る者こそ真の強さを得る、みたいな話でしたね。ああ見えてウジウジしているというか、わりとメンタルやってるタイプの人なのが面白かったです(面白がるな)。怪我した野良犬というか。この顔からカウンセリング系のシナリオ出てくるんだ〜みたいな。

 

とはいえ一言で表せば、真面目すぎるほど真面目な人だったかなと思います。親友を生かすために守護聖になった過去を引きずっているというキャラクターなのですが、それは守護聖とか使命というものに対して真面目だということです。

本当にそのへん真面目すぎ、考えすぎという感じの人なんですよね。私利私欲のために守護聖になった、弱い自分には資格がないと考えているわけです。守護聖には間違いなくふさわしい人物が選ばれるのだから、事実として全くそんなことはないはずなんですよね。でも認められない。

 

それこそ見た目と言動で損してる感があるのですが(実際カナタに怖がられてたりするし)、シュリが人付き合いを避けるのはみんなが嫌いだからとか、そういうことではないんですよね。自己嫌悪だからいいということでは全くないんですけど、そのあたりの本音が出たくだりではなんだか急にかわいく見えてきてしまいました。そんなことかよみたいな。

本人からしてみたら全然「そんなこと」ではないのですが、だからこそ自分ひとりではどうにもならないことだったのでしょう。アンジュからの感想が緊張してる、焦ってる、怯えてる、過去しか見てないとけっこうボロクソなのですが、自分がそういう状態であることに気づけていなかったり、気づいていてもそれでいいと思ってしまっていたわけですね。だから他者の手が必要だった。

 

でもアンジュのほうも、かわいそうだから助けてあげようとかではなくて、もっとシュリのことを知りたい、過去ではなく今、自分を見てほしいという気持ちから動くのが押し付けがましくなくてよかったです。対シュリに限ったことではないですが、相手の停滞に対して、そこから動き出してほしいと自分が思うからぶつかっていくのはアンジュの好きなところですね。

「私が」彼に笑ってほしいと思う、前を向いてほしいと思う、それは相手の意思をある意味無視することなのですが、そういう勝手さにアンジュが/書き手が自覚的なのが好きです。特にシュリなんて自分から過去に閉じこもっていたわけで、ただ彼に同意していては永遠にそのままかもしれない、そこを打破するためには勝手にならなくてはいけないですし、勝手である自覚はあったほうが好きですね。

 

相手の意に沿わないことをするので、ときに反発を受けるわけですが、そういうことを乗り越えてシュリが前を向けるようになり、想いが通じ合う結末はやはり感慨深かったです。シュリがひとつひとつあったことを数え上げるくだりにはグッときました。いろいろあったなという気分。

最後のほうと言えば、結局そのあたりのことばはシュリさん言うこと一生懸命考えてきてくれたのかな!? と思ってめちゃくちゃ萌えましたね。成立後はどんどん柄にない感じになっていくのもかわいかったです。めっちゃはしゃいでるよね。

 

 

ヴァージル

変な人でしたね……。攻略中笑った回数は間違いなく一番多いです。いかにも闇深そうな(あえてこの言い方をしますが)優男、実際重い過去あり武器所持、からのあのザマは予想できんのよ。変な人だったなあ。しみじみと噛み締めてしまう変な味。ギャップ大賞。

なんかもう様子がおかしくなっている姿の印象が強すぎるんですよね。アホなのかなあこの人と何回思ったかしれないのですが、まああれだけ様子がおかしくなるほど人を好きになれたらそれは幸せだろうなと思いました。慌てると口数が多くなるタイプの人なんですよねたぶん。面白すぎた。

 

でも、そのあたりは実際彼にとって大事なことだろうなと思っていて。重たい過去がある、家族や恋人と死に別れ、たぶん人を殺したりしたこともある、いまだにそうした過去の影から逃れられていなかったととらえられる描写は序盤や個別イベントなどにはかなりあります。いろいろなものごとへの考え方にも過去が強く反映されています。

それがあんなになっちゃったんだと思うと、なんていうか恋ってすばらしいですね、とか言いたくなってしまいますよね。あんなにわけがわからなくなってしまったり幸せそうだったり、暗い過去なんてどっかに飛んでいってしまうようなことがあるとしたら、それはとてもいいことなんじゃないでしょうか。よかったね。

 

他のルートが重たい事情があるならあるなりにそれとしっかり向き合っていく内容だったので、ちょっと違う方向性で新鮮に楽しめました。もちろんヴァージルのシナリオにおいて、過去の人生や事情がないがしろにされているかと言えばそんなことはないんですよね。

なにかしら真面目な話をしようとしても変なことを口走ってしまう暴走っぷりは面白かったとしか言いようがないのですが、ああまで必死になってしまう理由自体はシリアスかつ納得いくもので、アッパーなノリを保ちつつそれだけ切実なのだということ、根底にある大事な部分はしっかり伝えてくる描き方がよかったと思います。

このあたりゼノやシュリなどとは逆っぽい感じの話かなと。つらい過去にあえて触れる痛みを経ても、きちんと問題を処理していかなければならないことは真ですが、なんかそんなのもうどうでもよくなっちゃうくらいの幸福を得られるならばそれも真というか。ヴァージルはあのあたりと比べると過去に区切りをつけられているのもあるかもですが。このままアホでい続けられる人生であってほしいですね。

 

溺愛系というのが公式の文言だったか忘れたのですが、それが頭にあったので、間違ってはいないけど溺れてるのはヴァージルのほうじゃんと思いながらやってましたね。後半ほぼほぼ正気を失っていた気がする、は言い過ぎなんですが、被告白イベントはガチでちょっとヤバい人みたいになっててダメでした。恋愛8はかっこよかったのに……。両思いだからギリギリ許されてるだけかもしれんレベルですよ。

しかし振り返ってみるとやっぱりそのへんも含めてかわいいやつだったなと思いますね。相手を好きすぎていっぱいいっぱいになっている人、好きだなあ。私のこと好きなんですか? 一目惚れってことですか? のくだりは特にお気に入りです。全部口から出ちゃってる愛おしさ。

とはいえコントの件とか見ると、どうもこの人元からちょっと変なのは変らしい感じも随所にあるんですよね。平和な育ちだったらもっと素で変な人が出来上がっていた可能性もあるかもしれない。過酷な人生を送ってきたから、では説明のつかない何かが確実にあるんですよね……。

 

ノア

唯一の女性CVキャラですね。ノアよりも年下のキャラを設置しつつの采配なのがちょっと意外に思えますが、声や演技はキャラに合っていてよかったです。ちょっと暗い感じ、優しかったりかわいい感じ、ややたどたどしい口調が好きでした。どうでもいいけどノアが一番小さいというわりにノアですら普通に168あったりして、このゲーム平均身長高いですよね。小さいキャラと言うには普通の身長。個人的にはあと10センチマイナスしてもらっていいです(ショタコンの感想)。

見た目からして暗そうで、いろいろ重たい事情があったりするキャラですが、人格的には思いのほか気さくに感じられるくらいのバランスでしたね。普通に喋ってくれるし笑ってくれるし親切だし笑顔がかわいい。普通にいい人なんですよね。

あんな生い立ちで死を待つだけの人生みたいなこと言っててもこういう感じなの、並外れて優しいというかなんというか、ともかく稀有なことなんじゃないかなあ。もっとダメになっちゃっててもおかしくはないよな、ノアの人格に守護聖としてのふさわしさみたいなものを探すなら、そういうところかもしれないなと思いました。それゆえに自分の力に苦しみ続けてしまう人でもあるのですが。

 

ノアの過去はなんとも悲惨なものではあるのですが、話や設定のつくりとしては闇=安らぎ=眠り=死のつながりが綺麗で面白かったですね。死の普遍的な表現として永遠の眠り、長い眠りみたいな言い回しもありますし。そうしたものを司る力の暴走として誰彼かまわず殺してしまう、というのは素直に納得いくものなので、他の守護聖でそういうことが起きていたらどうなるものなのかなとも気になりました。シリーズ作品ではそういうのあったりするんでしょうか?

ともあれ、自分に触れた人の命を奪ってしまう力なんてものがあったら、人との関わりを避けようとするのは自然な向きですし、それを解決するには力を失うか、力に耐えることのできる人と出会うかということにはなってくると思います。もちろんスキンシップなしでも人と交流することは可能ですが、一定以上の関わり(特に恋愛関係)は難しい。

 

メタな話になりますが、このゲームのフォーマット的に前者はありえないので(アンジュと結ばれない場合の将来とかはまた別ですが)、後者に解決を求めることになります。青い鳥のたとえで、自分の力に影響を受けない他の守護聖たちをして居場所や仲間があるという結論になっていたのがよかったですね。力の影響が消える根本的な解決を望めないのはシビアな部分ですが、安易な展開にしないのは好感が持てますし、アンジュがいればいいという話にならないのもよかった。

アンジュとの間でのこの件についてはシナリオ中気合いというか愛でなんとかしているように見えますし、特に言及ないですが、女王候補だからと考えるのが私はスッキリするかな。あるいは愛でなんとかできるからこそ女王候補なのでしょう。

 

被告白イベントでは唯一、いつか役目を終えたら恋人になろうと言い出す人なのですが、せっかく心が救われてアンジュと両想いになれてもこの感じなのが切なくて、アンジュさんが付き合おうと言ってくれてよかったなあと思いました。他の多くの人にとって当たり前にできることが恐ろしいのはつらい。胃弱なのもかわいそうなんですよね。精神からきてそうなので、今後はアイスだろうが食べたいだけ食べてほしいものです。

告白系のイベントなどではアンジュを「カッコいい」と繰り返していたのが印象的だったかな。ノアにとってはまさにヒーロー的な存在でもあるんですけど、カッコいいとか大好きとかちょっと語彙が幼い雰囲気なのが萌えましたね。かわいい。帰省の服装が大学生風なのも好きです。