ひっつきむし(独断と偏見による)

だいたいゲームの感想です

「アンジェリーク ルミナライズ」の感想①(フェリクス・ゼノ・カナタ)

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アンジェリークルミナライズをやっています。絵柄がとても綺麗で全体的なクオリティも高く、テキストも良質で楽しんでいます。

新作乙女ゲームをやるのは数年ぶり、アンジェリークどころかルビパ作品初めてのヨチヨチぶりなので、システムの評価などはしづらいのですが、育成も楽しくできていると思います。むしろガンガンやりすぎてペース調整ミスってる気がする。

 

本作は主人公が25歳と、恋愛ゲームとしてはやや年齢高めの部類だと思いますが、しっかりめで現代らしい価値観の女性で好感が持てます。けっこうズバズバ言うのが好き。ツッコミ役としても面白いですし、見ていていやそれおかしくない? とかセクハラじゃない? みたいなところにちゃんと疑問を持ってくれるので、信頼できる価値観のゲームだなと思っています。ドン引きしてるシーンのスクショがわりとある。

とりあえず最初はフェリクス、ゼノ、カナタを攻略したので感想を書きました。以下ネタバレです。

 

フェリクス

フェリクスの変化と成長、二人の関係の進展を反復と綺麗な伏線回収で演出するシナリオが見ていて気持ちよかったです。すべての要素がしっかり繋がっているのがお見事でした。こういうピースがはまっていくような感覚のストーリーって好き。

二人の関係、その変化を象徴するアイテムである「女王の理由」を最後の最後にああいう形で台詞に混ぜてきたのは特にグッときたところでした。全然好きではなかったものを好きになった、共感できなかった主人公をアンジュに重ねるようになった、その到達点が「あんたには『女王の理由』があった」なんですよね。ただの小説のタイトルを超えて、このことばが二人のものになっているのがよかった。

 

「女王の理由」に始まる同じような場面や要素を反復していろいろな変化を見せていくのですが、これがフェリクスの性格ともよく結びついているのですよね。一見頑固な印象で、実際完璧主義者だったりなんでも一人でやろうとしたりと頑固ではあるのですが、言われて納得したらサクッと改める人でもあって、そこからわかりやすい変化が表れてくる。

挨拶しろよって言ったらしっかり挨拶してきたり、もっと笑えって言ったら周囲に笑顔対応するようになったりする、そういう柔軟で妙に素直なところは見ていて単純に好感持てますよね。このゲームの中でも特に差分演出がおいしい部類のキャラだと思います。

 

恋愛イベントにおいてフェリクスが問題を抱えてしまう原因も彼の性格ですが、なぜこういった人物であるのかが生い立ちから綺麗に立ち上がってくるのもよかったです。あまり深いつながりを持たず狭い世界で生きてきたこと、夢の守護聖であること(その性質を強く持つこと)を踏まえればこういう人になるのはそれはそう、と思える。

意固地になって失敗やピンチを招くのも夢の守護聖ゆえならば、素直に折れることができる、諦めずにリスタートできるのも夢の守護聖ゆえである、そういうところがよくできていますよね。

あとこういう生い立ちだけに恋愛一年生なのもそれはそうで、萌えていいのかわかんなくて笑っちゃいました(ゴメン)。キスシーンでいっぱいいっぱいになってけっこう大変だとか言ってたのはめちゃくちゃかわいかったです。大変て。

 

ビジュアルや年齢的にはCV上村裕翔はちょっと思ったよりかわいい感じがあるなというのが第一印象だったのですが、最後までやると納得のキャスティングでしたね。実際思ったよりかわいくて正解というか、意外と素朴で幼いところのある人ですし(これがまた生い立ち考えたら納得の部分なんですよね)。

「思ったよりかわいい」がこのキャラクターの大事なところだなあとは思っていて。ちょっと体験版触ってみようと思ったら笑顔立ち絵でやられたプレイヤーは多いに違いない。私です。ツンケンもしてくるけど妙に素直だったりどこか隙があったり、ギャップがチャーミングな人だと思います。いやほんとあの笑顔の幼さとかわいさはズルい。

 

なおかつツンケン部分もしっかり魅力的なのが隙のないキャラメイクとストーリー演出なんですよね。というかこんな顔して口悪いのがまずかわいいので無敵。基本的にズバズバ指摘しあうことで関係を作っていく話で、対等に高めあいリスペクトしあう関係になっていくので、言われるけどだいたい正論だし言われっぱなしのストレスもない。

そういった関係になるのも含めて、25歳同い年の設定がよく効いているのもよかったですね。どこかライバルめいた関係とか、フェリクスが同じ会社にいたらとか、こういうところは同い年だからこそだろうなと思いますし、幼さを感じる部分には25歳でこれか……のギャップ萌えがあるので、フェリクスくん25歳でよかったなあとしみじみしてしまいました。

 

 

ゼノ

カナタ以外では一番若く一番新顔ということで、カナタくんとの絡みが何気に印象的でした。ありがとな……カナタくんによくしてくれて……(大体の人は普通に親切でしたが)。親切かつ人当たりのよい感じで、いろいろと一番絡みやすそうなポジションの人。

しかし自分に自信がなく、人によってはイライラするほど卑屈な一面もあり……というキャラ。まあイライラしてる人よりむしろまとめ役としてわりと困っていたっぽいユエさんなどの苦労が偲ばれるのですが、ではどうしてこういう人であるのか、そしてトラウマの克服と前進を丁寧に描いていたシナリオだったと思います。

 

ゼノのように心の奥に何かを抱えている人の問題を知るには、当然ある程度思いきって切り込んでいかなければならない部分があります。知ろうとしなければ知ることができないし、かと言って刺激しすぎたり勢いよく踏み込みすぎてもいけない。

3〜4択中ひとつのみが正解であとはフラグ折れる系の選択肢でも、ゼノのシナリオでは特に慎重なことば選びがいる印象でした。これとこれ言いたいこと自体は同じだよねというものの中から、最も適切なニュアンスの発言を選ばなければならないような。

 

ゼノの中心にあるのは「なぜ自分だったのか」という問いです。最も守護聖にふさわしい能力(サクリア)の持ち主だったから、としか答えようのないことで、ほとんど無作為の結果なのですが、それでは決して納得できない。できていたらここまで悩んでいないのです。

故郷が滅んでも結果的に自分ひとりは助かったこと、いわゆるサバイバーズ・ギルトがここで扱われますが、これも同様に「なぜ自分だったのか」に答えはありません。結局のところ、すべてがたまたまそうなったとしか言えないことです。誰かの意図や必然の理由はどこにもない。

 

しかし誰が悪いと言えないならば、なおさら自分を責めるしかなくなるのですよね。どうして自分だったのか、それを問い続けて、せめてふさわしくあるようにとがむしゃらになるしかなく、さりとて自信が得られるわけでもない。本人が言うように、そうすることで逃げていたのであって、向き合って乗り越えるしかなかったのだと思います。

とはいえそれはゼノ自身にもよくわかっていなかったことであり、彼を外側から、そして近くで見つめ、追いかけられる存在のアンジュだからこそ解決の糸口を掴めたのだ、というのが好きなところでした。彼だけを見て、小さな違和感に気づいたり、理解しようとしたりしたからこそ、「誰かに気兼ねしている」というクリティカルなところを突けたわけですよね。

 

ゼノはそのあたりについて痛いところだから守っていた、強く触れるのを避けていたわけで、いろいろと指摘されてカッとなってしまうのは当然と言ってもよいのですが、自分から謝りに来てくれてやっぱいいやつなんだよな……と思いました。ゼノの優しいところ、善人なところを見て好きになるので、あんな風に怒ったりするんだという流れからやっぱいいやつだなあ、になるのは強い。美点がより印象づくと言いますか。

その後の故郷が滅ぶところを一緒に見る流れにしても、ただこちらから働きかけて問題を解決するのではなく、ゼノが自分で動ける人なのがよかったです。アンジュの存在や助けは確かに必要だったけれども、肝心な部分は自分で頑張れる、行動できる人なのですよね。過去を受け容れることができたのは、間違いなく彼自身の力でもあると思います。

わりと重苦しめのストーリーでしたが、恋愛成就後はめちゃくちゃ浮かれててかわいかったですね。年下だから伸び代がある発言すき。あとポットラックパーティーでの勢い余っての「ミルフィーユを持っていきます!」が好きでした。基本がドのつく真面目なんだよな。

 

カナタ

Twitterでのプロモーションが非常に印象強く、かく言う私もあれで購入を決めました。演出そのものも劇的で面白かったですし、普通の高校生の淡々とした何気ない日常の書き味がリアルで、これの作り手の出してくるゲームなんて絶対好きじゃん、と思ったのが決め手でしたね。ありがとうカナタくん(?)

誰でも守護聖になるのは問答無用ではあるにしろ、カナタは女王システムの知識のないバースからガチで突然誘拐されてくるというあまりにもあまりな境遇なのですが、最序盤以外は基本的につとめて明るく振る舞っているのがあまりにも健気で絶対彼のことを見届けなければという気持ちになりました。自分がいっぱいいっぱいでもアンジュに気を遣ってくれたりするし、とにかくいい子すぎるんよ。10日目から出勤せんでもええ。

 

彼は本当に本当にとてもいい子です。優しく善良で、そして真面目であるがゆえに悩んでしまう人です。突然知らない場所に連れてこられて人権もクソもない目に遭わされて、その上働いて他人に尽くせなんてめちゃくちゃなんですよ。もっと怒ってもサボっても(サボりとか言いたくない)何もおかしくなんかないと思います。

それなのにカナタくんときたら、できるだけ明るく前向きにやろうとか適応しようとかすごく頑張っていて、めちゃくちゃいい子で、もはや見ていて言い知れぬ怒りが湧いてくるのですが、いくらそういう風に思って努力しても、やっぱりまだ混乱しているし、家に帰りたいともこんなの無理だともどうしようもなく感じるわけで。しかしまた、自分が守護聖であることも否応なしに理解していってしまう。そういう矛盾や割り切れなさ、ぐちゃぐちゃに絡まった気持ちの生々しさがグッときたところでした。

 

ゼノなどでもそういう観点がみられるのですが、守護聖、あるいは女王候補に選ばれるのは災害や事故に遭って生き残るようなものです。いきなりすべてを失う理不尽に遭い、それでも生きていかなければならない。そうした状況下では、やはり喪失を受け容れ、新しい環境に適応していくことが必要……なのだとは思いますがそんなに急がなくていいよカナタくん(涙)

その元いた世界・家族や友人の喪失、永遠の別れというものが後半話題になってくる部分です。なんとか気持ちにケリをつけて前に進もうとしたり、そのためにもう一度だけ彼らに会ってみてもやっぱり全然心の整理なんてつかなかったり、カナタの一生懸命もがいているところを見ると泣けてしまいました。そんなに頑張らんでええ。

 

とまああまりの悲壮感に「すべて失った」ところばかりに目がいってしまうのですが、誰かと永遠に別れることは、その人からもらったものまで失うことではない、という話になるのですね。たとえもう会えなくても、過去にあったこと、愛されていたこと、愛していたことがなくなるわけではない。

カナタがそれに気づき、本当の名前を預けてくれるくだり、愛してくれた人を同じように愛していることが自分の守護聖としての力の源だと言い切るくだりが本当によかったです。それがそばで支えてくれた理解者であるアンジュの存在、その愛あってのことなのがまた綺麗な構成でした。

 

カナタくんはアンジュの7歳下、最年少になりますが、やっぱり年下萌えが詰まっててめちゃくちゃかわいかったですね。普通にプレイしててどう見てもヤバい人になってしまった。ショタコンなので……さすがにショタではないですが……。男子高校生すぎる食の好みとか、趣味の話になるとテンション上がりまくりなところとか好きです。食レポを強いられるカナタくんはかわいい。